Boiling Mind が目指したことは

Voice of Sugawa Moe

ダンサーと観客の生体反応を試みる実験的な4公演を行った須川萌が、その試みについて報告します。

Boiling Mind が目指したことは 慶應大学大学院メディアデザイン研究科 須川萌

BoilingMind プロジェクトは、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科とマドモアゼルシネマを掛け持つ、須川萌(私)の研究から始まりました。 BoilingMind は、観客 /ダンサーの身体反応を舞台上や観客席に可視化し、観客とダンサー、作品とが共創する舞台芸術です。 普段は、見る観客 / 見られるダンサーという関係に、テクノロジーを用いてその境界線を緩め、ダンサーと観客を繋ぎます。そして、まるで観客も舞台美術の一部のように舞台を作り上げる。そのような新しい鑑賞体験を生み出すことを目的としています。 2019 年から 2020 年にかけて、観客に装着した心拍センサー、発汗センサー、アイトラッキングから解析したリアルタイムの感情データを、舞台上に映像と音楽、照明として構成し、舞台美術とするシステムの試作と研究を行い、セッションハウスで公演を行いました。このプロジェクトを通じて舞台上の関係性に新しい可能性があると確信した一方で、アートとテクノロジーの融合による舞台表現はもっと深化できる。と悔いを残したまま卒業しました。 アーツカウンシルの助成により、計4公演、異なるダンサー達と KMD 研究者との共創が再開し、Boiling Mind3.0 が始まりました。

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第一弾はマドモアゼルシネマ。心拍センサーを装着した観客の感情データが、ダンサーによって直接触れられる舞台上の人形に投影される等、「ダンサーが観客の感情と踊る」方法を考えました。これらはダンサーにとって、観客の心を近くに感じ、観客と共に踊る感覚を呼び起こしました。

 

第二弾のブッシュマンでは、ダンサーの身体感覚を、観客が装着した振動するデバイスを通じて、触覚として伝える試みを行いました。KMD の Rei さんが、振付家黒須さんの身体感覚を、一挙手一投足まで密に触感に翻訳する作業を行い、それをリアルタイムに観客に伝送する「触覚 DJ」という新たな舞台スタッフとして活躍。観客にとっては普段意識できない身体感覚を追体験し、より深くダンスを見るきっかけになったと同時に、ダンサーにとっては「身体上の動き、ダイナミクスが触覚として観客に伝わる。普段伝わらないものを伝えられる」という新しい発見がありました。 

 

第三弾の笠井瑞丈と3つのデュオでは、ダンスも音楽も舞台美術も全て即興!観客やダンサーの心拍の鼓動が赤く点滅する柔らかいボールを遊び道具に、時にコメディになったり、時に命の永久性を感じたり、時に孤独に寄り添い合う動物たちの魂に見えたり、たくさんのアイディアが毎公演生まれました。不確実でごちゃごちゃな即興が終盤で繋がっていく様は、プロジェトが目的とした「観客とダンサーの境界を溶かす」風景の答えが見えた瞬間でもありました。 

 

第四弾は、マドモアゼルシネマ、ブッシュマン、笠井瑞丈による合同公演「祝祭の始まり」。心臓の鼓動を可視化する「e-lamp.」を観客全員とダンサーが装着し、感情を舞台空間全体で共有しました。「e-lamp.」の光の明滅をリアルタイムに撮影し、ダンスシーンのテーマに沿った美しい映像として投影。観客の心が空間へ反映され、ダンサーと一緒に観客が舞台の一部になる。このプロジェクトの集大成となりました。 

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テクノロジーによって、他者とコミュニケーションが生まれれば、時に分断も起きます。テクノロジーの人智を超えた技術に感動し、時に絶望します。ダンス鑑賞というアートにテクノロジーが入ることで、分断や絶望が起こるかもしれません。 それでも、テクノロジーがダンサーや観客にとって、安らぎや希望を感じる、未来のコミュニケーションツールになってほしいと願っています。 私がここにいて、あなたがここにいて、出会い、心のままに幸せを感じる。また世界のどこかで BoilingMind のDNAが繋がることを願って ....。

須川萌

ヴォイス・オブ・セッションハウス2023より抜粋

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